解題/抄録
- [豊國十二ヶ月]の解題/抄録
- このシリーズは、歌川豊国(三代1786-1864)が、江戸の年中行事や風俗などを十二ヶ月に当てて描いた3枚続きの美人画12組から成る。歌川派を象徴する「年玉」印の黒い枠内に題名が書かれ、版元は蔦屋吉蔵で、嘉永7(1854)年4月と6月に出版許可の改印を受けている。三代豊国は初代歌川豊国の門人で、はじめ国貞と号し、弘化元年(1844)から豊国を名乗っている。美人画・役者絵の名手であり、画歴も長く、大勢の門人を擁した。
- 書誌の解題/抄録
- 画題:十二月ノ内・霜月・酉のまち
画工名:歌川豊国(3代)
落款:豊國画(年玉枠)
改印:「寅六」「改」(嘉永7年6月改)
判・種類:大判、錦絵、3枚続
種類:美人画、風俗画
版元:(富士山形に蔦に星)(蔦屋吉蔵)
解説:黒の年玉枠内に「十二月ノ内」と題する美人画揃物の一図。「酉のまち」は「酉の市」「お酉様」とも呼ばれ、陰暦十一月の酉の日を祭日とする鷲(おおとり)神社の祭礼で、その日に立つ市が賑わい現在も行われている年中行事。例年は「一の酉」「二の酉」だが、年によって「三の酉」まであり、その年は火事が多いとされている。古くから行われたのは花又村の鷲大明神で江戸の他地域にも広まり、後には下谷浅草田圃の日蓮宗長国寺や浅草鳥越神社が有名になる。三代豊国のこの絵は、背景に見える天水桶のある家並みが吉原なので、下谷浅草田圃とみてよいであろう。右図の美人は煙管(きせる)の筒を帯に挟み、懐手をして、買い求めた縁起物の大きな熊手は丁稚に持たせて歩む。行き交うのは少女を連れた二美人か、防寒用のお高祖頭巾を着用し、左図の美人はこの市で名物の「唐の芋」を下げている。中図の美人が手拭でぶら下げているのは「黍もろこしの切餅」かもしれない。葭簀(よしず)を立てかけた水茶屋もあり、少女が何か飲んで行きたいとねだるが「もう帰るのよ」とでも言っている場面が想像される。少女の前髪にも、熊手におかめの面の付いた簪がさしてある。(木村八重子)
所収資料名:『[豊國十二ヶ月]』(請求記号:寄別2-8-1-6)
他に『錦絵帖』(請求記号:寄別2-8-2-7)、『風俗吾妻錦絵』(請求記号:寄別1-9-1-2)